Creative: Miyagi Kogyo
宮城興業:グッドイヤーウェルトの 革靴を作り続けて 60年以上の製靴工場
2008年発行 「日本の革 1号」より
靴を選ぶ。自分にぴったりの靴を。この“ぴったり”をおろそかにしてはいけない。特に革靴ではその履き心地に雲泥の差が出る。
「“たかが靴、されど靴”なんだよね、本当に」
と宮城興業の社長、高橋和義さん は言う。
日本において、欧米文化を参考とし、その姿を模すことが流行の最先端である時代があった。革靴もその中のひとつであろう。もともと靴を 履くという習慣がなかった日本。土の上の生活から石、コンクリートという舗装された硬い路面を闊歩するようになっても、革靴の持つ特性は正確に知られていなかった。
「売り場を見るとレングス表示しか なくて、“足巾2E〜4Eまで”なん てことが書いてある。日本人はみんな甲高幅広だからと、軽く考えているんだよね、売り手が。でも実際は 一人ひとり足の形は違うもの。イギリスやイタリアで靴を買おうと思うと、一つの商品に対して何十ものサイズが用意してあるんだ。買う方もサイズの大切さがわかっている。どんなにいい靴でも、自分の足のサイズにぴったりでないと意味がないと。でも日本では、同じ商品でそこまでサイズバリエーションをストックはできない、リスクがあるからね」
履きこむほどに、足に馴染んでい くという特性を持つ革靴。より自分の足に“ぴったり”な靴でその特性を伝えたいと、山形に工場をかまえ る宮城興業では、1デザインに35通りのサイズ展開ラインを発表した。さらにその後、カスタムメイドシス テムを完成させることになる。通常、何百というロットで動く、生産性のある宮城興業のような製靴工場ではまず考えられないことだ。
「オリジナルだけじゃなく、OEMとしても5足くらいの極小ロットから注文を受けるよ。革靴って工程のそれぞれの専門性が高くて、1から10までできる工場ってすごく限られ ている。うちではなにからなにまでも自社工場でできるようにしてある。だから1足からだって対応できるん だ。大変だけどね、でも“たかが靴”って思っている人にはできない、だからやらなきゃね」
ひいては革という素材が持つ素晴らしさを多くの人に伝えたいんだと語る高橋社長。
「革っていいもんなんだ、と教えてくれる人が日本ではまわりにいないよね。もともとの文化にないから。だから僕らがつくる靴でそれが伝わればいいなと思う。革ってすごい素材なんだよって」
革の魅力、それはいったいどんなところにあるのだろう?という問 いに高橋社長は言う、革は日々成長していくものなのだと。
「革靴は手入れが必要でしょ。でもそれは革を長持ちさせるためじゃないんだ。革を育てているんだよ。自分の足にあわせて成長させて、自分だけのものに仕上げていく。そうすることで履き心地はどんどん良くなって、見た目だけじゃなく歩き方も変わる、立ち姿だってきれいになるんだ。こういうことって、他の素材では味わえないよね」
つくればなんでも売れる時代があった。しかし今は違う。昔は手に入りづらかったイギリス、イタリアの靴。そのコピーをつくれば、売れた。しかし、今では本物が簡単に手に入るようになった。いつまでもコピーという考えでは、いつか行き詰る。
「日本の、宮城の靴がいいんだと思わせる必要がある。その可能性を探し続ける努力をみんなでしていく。グッドイヤーだって永遠じゃないかもしれないもの。もしかしたら革だ ってそうじゃないかもしれない。靴に対してもっと真剣に考えていかないと。“されど靴”なんだよね」
靴を知ること。それはつくり手だけでなく、履く側にとっても大切なことなのかもしれない。
細かく分けると、200を超える工程がある靴づくり。その工程をすべてではないにしても知ることで、靴に対する考え方は、大きく変わるはずだ。
1: 木型をつくる
企画、デザインに合わせて木型を削っていく。オーダーによっては履く人の寸法に合わせてミリ単位でヤスリをかけ仕上げていく。靴づくりのすべてはここからはじまる。
2: 紙型制作
木型に隙間なくテープを貼り、紙型へと落としていく。アッパーやヒールの曲線を立体から平面へと写す作業は見た目以上に難しい。
3: 裁断
紙型から出た寸法をもとに革を裁断。自然素材である革は、一枚として同じものはなく、使い場所はそれぞれに見極めなければならない。
4: 縫製
型抜きをした革を縫い合わせていく。平面から再び立体へ。つり込み部分などを考慮し、より立体的にまとめる。
5: カウンター入れ
踵の形を整える。同様につま先部分にも芯を入れて、形が保たれるようにする。
6:つり込み
縫製され、型が整ったアッパーにラスト(靴型)を仮止めしていく。仕上がりに緩みがでないようしっかりとフィットさせていく。
7:スクイ縫い
つり込まれたアッパーと中底に立てたリブを縫い付けていく。縫い目が表に出ないグッドイヤー製法で特に重要な工程。
8:出し縫い
スクイ縫いで縫われたウエルトにソールを縫い付ける。コルクなどのクッション材はここではさみこまれる。
9:コバ削り
高速回転をする刃物で底のサイドエッジを仕上げる。機械ではなく、職人の勘が頼りの作業。
10:仕上げ
熱コテをあて、インクを塗り上げ、磨き上げていく。どのように仕上げるか、技だけでなく高いセンスが重要。
完成!
仕上がりを入念に最終チェックし、完成。