Creative: Tochigi Leather

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栃木レザー:タンナーのプライドが 生んだ天然皮革の タンニンなめし

栃木レザータンナーのプライドが
生んだ天然皮革の
タンニンなめし

原皮より革をつくり出すタンナーという仕事。
その中でも時間をかけ手間をかけ、
自然の素材を自然のままに“なめす”技があった。

2008年発行 「日本の革 1号」より

栃木レザーは、昭和12年9月1日にその歴史の幕を開けた。時代は太平洋戦争前夜、日中戦争の只中にあった。日本の多くのタンナーと同様、軍需産業として歩みはじめた同社は、幾度かの製造品目の変遷、戦争の終結を経て昭和30年代よりヌメ革の製造を開始する。
当時ヌメ革の主な用途は学生鞄だった。第一次ベビーブームで生まれた団塊の世代が中学校へ進学する際には爆発的に需要が増加し、同社のみならず関東一円のタンナーが学生鞄のメーカーに卸す革の製造に力を注いだ。
昭和43年頃より、ナイロン製のマジソンバッグ(マジソン・スクエア ・ガーデン・バッグ)が流行し、学生鞄の需要は大幅に減少。しかし、栃木レザーの革は、官需用を含め、鞄にベルト、靴底に財布、建材用として、学生鞄以外の用途でも重宝されるようになる。現在は、国内トップメーカーからも受注。一貫して植物タンニンのなめし革を提供し続けている。

厚手の革を伸ばすセッター。なかでも手作業でおこなうハンドセッターには長年の経験が必要となる


革の良さを
自然なカタチで仕上げる

「はっきりとタンニンの良さを意識しはじめたのは、ここ10年くらいなんです。近年、環境問題が取り沙汰されるようになって、あらためて『自分たちはこのままであるべきだ』と思いました。伝統的な手法を守ってこそ本物の革が生まれる、という自負を持って仕事に取り組もうと」
栃木レザーの代表取締役社長・山本昌邦氏(取材当時)はそう語る。氏は、皮革における本物という言葉を、「自然体、ナチュラルであること」と定義する。「化学(科学)の力で加工することをなるべく避けたい」という思いから、工程の簡略化を避け、手間のかかる作業に時間を費やすことをいと わない。
たとえば、タンニンなめし。作業時間の短縮や経済的なコストを鑑みず、一枚一枚の皮を丹念にタンニン層でなめしていく。漬け込む期間は約20日間。皮の質によってはそれ以上時間がかかるものもある。職人たちにかかる負担も決して軽くはないが、"皮"を"革"に仕上げるための労力は、決して惜しまない。時間をかけて満足のいく革をつくり、世に送り出したい――。信念と矜持があるからこそ、昔ながらのタンニング手法を頑なに守り続けている。

タンニン溶解液の入ったピットの数は160。ここまで多くのタンニン槽が並んでいる光景には、そうそうお目にかかれない。ちなみに、栃木レザーのタンニンには、ブラジル産のミモザの樹液が使用されている。

丁寧に製造された革は、堅牢性が高い。実際にこの革で鞄をつくった場合、使い込むほどに味わいや光沢は増すが、コシがしっかり残るために型崩れすることは滅多にない。20に分けられる工程において、それぞれの持ち場の人間が誇りを持って作業に取り組む。熟練の技術と高い志を持つ職人の仕事は、後々に生きてくる。
また、環境問題への配慮として、廃水処理の際に薬品を使わず、その際に出る汚泥を再利用出来るよう肥料として登録している。タンニンという天然素材を使用しているからこそ可能なリサイクルを実現し、自然との共生を心がけている。
「日本の皮革産業では、製造側がいかにメーカーのニーズに応えるか、という点に重点が置かれてきました。その結果、工業的な素材をつくる技術は世界的にトップレベルになりましたが、根本的な部分で、"良いものを作って長く使ってもらう"という気持ちを忘れてしまったような気がするんです」
忘れてしまった大切な気持ちを持ち続け、本物の革の良さを世に問う。山本氏の真摯な語りに、栃木レザーの本質を見た気がした。

植物タンニン溶解液の入ったピットに皮を漬け込んでなめし上げる。薄い液体の槽から濃い槽へ順繰りに漬けることで、皮にタンニンがなじむようになる。

石灰漬けは重要な工程のひとつ。皮を浸からせると毛穴が開き、脂分が抜けて脱毛もしやすくなる。

仕上げに顔料をスプレー。均等に 吹きかけるのは見た目以上に難しい。

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