Knowledge: World Leather
ワールドレザー:世界の革産地を巡る旅
2009年発行 「日本の革 2号」より
革の原材料となるのは、生き物の皮だ。哺乳類、爬虫類、両生類、魚類など「皮」がある生き物から「革」はできる。そのほとんどが、その地の文化や民族とともに発展してきた。地域ごとに、その気候に適した生き物から美しい革を加工する技術が発展してきている。
世界中で最初に革を使ったのは誰か?それは、旧人のネアンデルタール人であるといわれ、彼らの遺跡から狩猟のための尖頭器だけでなく、皮から肉を効率よくそぎ落とす石器も出土されている。ここから、肉を落とし、叩いて、揉んで、煙で燻すといった「なめし」の技法に発展していく。皮の加工はロシアやカナダ、ノルウェー、スウェーデンといった寒冷な地域から発展していったと考えられており、これらの地域では、なめし用の原始的な器具が見つかっている。
まずは、防寒具として、そして呪術や祭祀用、日用雑貨、近代以降は装飾品として発展してきた。環境や民族と密接に関わっている革は、近年では動物保護や環境保護への意識の高まりから、使用可能な技法など様々な制限が生まれ、そこからまたさらなる技術革新が進んでいる。
Leather home 01
人が入り込めない場所もまだまだ多く、多種多様な生き物が生息している南米地域。高低差が激しい地勢で、アマゾンなど熱帯地域ではワニやヘビが、チリなどの比較的寒冷な地域はトカゲなどの産地で知られる。山羊やその亜種などの動物も家畜として飼育されており、それらから毛皮や革を取る文化も息づいている。
Leather home 02
温暖で安定した気候のオセアニア地域は、世界中で珍重されているイリエワニやシャークスキン、オーストリッチといった高級皮革の原皮産地で知られている。大・中型の皮革だけでなく、小型の皮革であるヘビやトカゲもとれる。近代、軍用としても用いられてきたカンガルーなどの有袋類の産地でもあり、種類は豊富。
Leather home 03
熱帯に属する東南アジアでは、ワニの養殖が大規模に行われている。皮を取る目的もあるが、食用としても扱われているワニは、この地域の文化と歴史に密接に関わっているといえよう。獰猛だが美しいウロコで知られるイリエワニ、独自のオリーブ色が特徴的なシャムワニなど多くの種類が数多く生息している。
Leather home 04
革は食用として用いられた後の「二次的産業品」である。牛肉を大量に消費するアメリカは、その消費にあわせて必然的になめしの技術が発展してきた。それだけではなく、革の原料となる「原皮」の産地でもあり、日本をはじめ多くの国に輸出している。先住民の革の文化も注目すべきで、美しい工芸品なども残る。
Leather home 05
キューバには美しいワニが多数生息している。その皮革を巡って、動物保護のためのワシントン条約が締結する以前は、乱獲がおこなわれてしまっていた。そのため、国の名前が冠された「キューバワニ」が絶滅の危機に瀕しているという悲しい現実もあるが、ワニ以外でもアナコンダやニシキヘビなどのスネーク類の産地でもある。
Leather home 06
ワニ、スネーク類、トカゲなど多種多様の爬虫類が生息しているインドネシア。「ダイアモンドパイソン」と呼ばれる美しいニシキヘビ、「リングマークトカゲ」と珍重される最高級品などもインドネシア産が多い。より高品質なエキゾチックレザー、野生よりもきれいな状態で出荷できる養殖も盛んに行われている。
Leather home 07
薬品化学工業が発展している先進国といえば、ドイツ。革の加工には多くの薬品が使われるのは知られるところ。ドイツはその研究が進んでいる国なのだ。牛肉や豚肉を消費する食文化で、その副産物である皮革をなめす技術や染色技術が文化として発展してきた。世界的な服飾ブランドもあり、装飾品としても注目されている。
Leather home 08
ワニ、ヘビ、トカゲ、オーストリッチ、エレファントなど無数の種類のエキゾチックレザーの産地、アフリカ。他の産地とはまったく違う魅力がある。サイズが大きく利用価値が高いナイルオオトカゲ、ナイルワニ、7~8mの体長でも知られるアフリカニシキヘビなども有名だ。産地によって日本に輸入できないものもある。
Leather home 09
柔らかく絶妙な発色で知られるイタリアレザー。古くからタンニンなめしがおこなわれ、染色の技術も同時に発展してきた歴史が生み出した逸品。ルネッサンス期には、完璧な美しさを誇る装飾の技法(打ち出し、打印、彩色など)が確立され、本や刀にとどまらず、インテリアなどにも積極的に革が用いられてきた。
Leather home 10
革製品を取り扱う、世界的にも有名なブランドの本拠地があるフランス。自然、上質な革の多くがこの国に集ってくる。中世以降多くの戦いを経てきており、馬具や馬車の道具、武器などを製造する確かな技術を継承し応用してきた歴史もある。また、エレガントなレザーが好まれるお国柄で、そのニーズに応える有名タンナーも多数。
Leather home 11
鞍をはじめとする馬具、そして知識を伝える書物に革が用いられてきた。用途に応じて堅牢だったり、しなやかだったり…。いずれにせよ丈夫で長持ちする革を生産することでも知られており、現代も伝統的な技術で革が生産されている。門外不出の技術で知られるタンナーも多い。また紳士靴の分野では世界的な名ブランドも多い。