Products: Six coup de foudre
シス・クー・ド・フードル:いただいた命は余すとこなく使い切るエシカルなモノづくり
まずは、そのバッグを持って訪れたとある店で取り扱ってもらうことになり、すぐに売れて追加を繰り返していたことから、パリでの展示会も参加することに。そこでもたくさんのオーダーが入ったため、革の仕入れを見直さなければならなくなった。
革は問屋を通して仕入れるのが一般的だが、高見澤さんは個人で活動していたのでそれを知らず、いきなり姫路のタンナーに訪れたという。門前払いされそうなところを温かく迎え入れてくれ、目的であった革も仕入れることができるようになる。だが、すぐに次なる問題が。今度は次々と入る追加オーダーでキャパオーバーになってしまったのだ。1人で作ることに限界を感じ、姫路のタンナーに相談。そこで大阪の老舗鞄工場を紹介してもらってすべての面がクリアになり、安定した鞄づくりができるようになったのである。
シス クー・ド・フードルはフランス語で「第六感でひと目惚れ」の意味。原宿ラフォーレのアッシュ・ペー・フランスに毎週納品していたとき、ひと目惚れして購入する人を何度か見たことが記憶に残っていたことから名づけられた。また、語感で「死す・喰う・フード」の音も重ね、命をいただき、食べ物として、そして副産物の皮を品物として活かすという想いも込められている。その後、4つ目のモデルとして発表されたのは、ハンドルに鹿の角を使ったバッグ表。だが、骨董店で入手していた鹿の角は原価が高く、販売価格とのバランスが取れなかったため、人づてに猟師さんを紹介してもらうことに。
この出会いは、後にブランドの象徴にもなる「ジビエ革」の誕生につながることになる。自分のために作ったバッグをきっかけに、ファッションスタイリストから転身を遂げた高見澤氏。度々訪れる試練を乗り越えられたのは、間違いなく人との出会いだろう。運がよかったといえばそれまでだが、鞄づくりと真摯に向き合ってきたからこそ、そういった人たちを引き寄せたともいえる。
革をひとつの素材としてとらえる人も多いが、高見澤氏は昔から命をいただいている感覚が強い。だからこそ猟銃で撃たれて穴が開いていたり、野生ゆえに傷だらけだったり、これまでは使い物にならないと破棄されていた皮を使う発想にいたったのだろう。そして鹿や猪、熊といった野生動物を活かすジビエ革が2006年からスタートした。せっかくいただいた命を一切無駄にしたくないという想いから、革製品をつくる際に出るハギレもパッチワークとして蘇らせるという徹底ぶりだ。ジビエ革を採用したバッグや財布などの革小物は、穴や傷もひとつの個性となり、仕上がりの表情もそれぞれ異なる。つまり、正真正銘の1点モノというわけだ。
さらにショップでは、鹿の角を使ったカトラリーや指輪、イヤーカフなども展開している。ここまで余すとこなく使用してもらえるとは、動物も浮かばれるのではないだろうか。現在も高見澤さんは定期的に山を訪れている。山に転がっているさまざまな素材は、デザインのインスピレーションにもなるからだという。さらに野生動物が育った環境を考えるきっかけにもなる。それがブランドコンセプトである、革を通じて世の中を考えることにもつながるのである。
左右に配されたフレームがカタカナの「コ」、開いたら「ロ」の字が浮かぶことから「ココロ」と名づけられたシリーズ。閉じる際に自然と手のひらを合わせるつくりになっており、使うたびにその所作を通していただいた命に感謝できるという、シス クー・ド・フードルらしい長財布になっているのだ。
使用しているジビエ革は、墨染めされたツキノワグマ。野生味あふれる独特な風合いはもちろん、鼻を近づけるとほんのりと墨が香り、どこか落ち着いた気分にさせられる。内部はお札やカードなどがすっきりと収まるシンプルな設計。しかも0.5㎝と薄マチなので、スマートに持ち運ぶことができるのもポイントだ。