Creative: i/288
i/288:パンプスの選び方が変わる とびっきりの一足に出会う
2015年発行 「日本の革 8号」より
魔法の靴。誰の足にもピッタリと合い、飛び跳ねたくなる履き心地…。というのは、実は魔法の靴ではない。思い出して欲しい、あのシンデレラの靴を。魔法使いがつくったその靴は、シンデレラにしか足入れができなかったはず。だからこそ王子様とのハッピーエンドを迎えたのだ──。唐突だが、この話が何を示すかというと、人の足は“千差万別”ということ。だから、靴には細かいサイズ展開がある。トップスやボトムであればS/M/Lを基本とする3+αのサイズ展開であるところ、靴は通常、0.5センチ刻みで、女性靴に限っていえば多くて8サイズほど。ただし、これはあくまで足長に対してのサイズ。これに足囲サイズであるA〜Fまでのサイズが本来はある。さらに付け加えると、足型は各社が持つ靴型といわれるもので成型されている。この靴型の微妙な差が履き心地を左右しているのだ。この差をどう埋めていくか。そんな業界の長年の課題に立ち上がったのが、全日本革靴工業協同組合連合会(全靴協連)が始動させる「革靴基準品質」認証事業だ。
全靴協連では日本女性の足の形状やサイズの実態を調査し、日本女性にとってどんな靴がベストフィットするのかを産業技術総合研究所と一緒に研究してきた。
その成果をつくり手だけでなく、一般消費者へと還元するために製作したのが、足長16サイズと足囲9サイズのJIS規格144型に加え、ストレートとカーブの2タイプの足型を掛け合わせた合計288の靴型だ。基準とする足型を多く揃え、また製作工程におけるガイドラインを共有することで生まれるこの「基準品質」。この「基準品質」のタグが付いていれば、メーカーが違えど同一の履き心地を確保できるというわけだ。
もちろん、この統一品質に辿り着くためには数多のハードルを越える必要がある。しかし、その壁を超えることができるのが、ニッポンのものづくりなのだということを、本プロジェクトが今後証明してくれるに違いない。
今回のプロジェクトを始動するにあたり、まず音頭をとったのが、パイロットシューズの藤原仁さん。2012年に東都製靴工業組合の理事長に就任した人物で、熱い志で牽引している。「おおげさでなく、既製靴は100年以上、海外から輸入された靴型をベースにずっと靴をつくり続けてきたと言っても過言ではありません。しかし、本来、靴は一人ひとりの足型に合わせて『カスタマイズ』すべきアイテムで、Aさんに合えば合うほど、Bさんには合わなくなる…。一方、製造原価を下げることも大切で、同一商品を『マスプロダクション(大量生産)』してお客様にお届けしていますが、多くの人に合わせるために靴型をどこまで揃えられるかを考えると、それは途方もないこと。ここで立ち上がったのが、今回、この2つの難しい条件に同時に応えようと志した5社の靴メーカー。それぞれの個性をいかしながら協業し、つくり方やサイズを規格化・認証化することに挑戦。JIS規格だけの限界を超えて、新しい『マス・カスタマイズ』システムの構築をめざし作製されたのが288の靴型です」。そして、それをいかす場も立ち上がる。それが2015年12月に東京は大手町カンファレンスセンター内にオープンする「パンプスメソッド研究所i/288」だ。
「女性たち一人ひとりに自分の本当の足のサイズを知ってもらうこと」。「そして自分の足のサイズにピッタリなパンプスを見つけてもらうこと」を目標に掲げる。同所では、まず正しい自分の足のサイズを計測。そのデータをもとに288サイズからぴったり合う靴を探し、カルテを作成。このカルテデータを登録しておくことで、どのお店に自分の足のサイズに合う靴があるかを専用アプリで探せるようになるという(アプリは開発中)。もちろん、その場でパンプスを購入することもでき、さらには日常的に履いて不具合を感じたら、点検&調整も可能。
“靴ありき”ではない、“人の足ありき”の施策。ニッポンならではの誠実なものづくりの原点をここであらためて見ることができそうだ。